PELLE MORBIDA

10 .February .2020

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~編集者 速水健朗さんに学ぶ、着眼点の見つけ方Vol.1~

~編集者 速水健朗さんに学ぶ、着眼点の見つけ方~

速水健朗さん
ライター・編集者。1973年生まれ。出版社勤務を経て、2001年よりフリーの編集者・ライターとして活動を開始。なんでもない事象から新しい価値観を見つけ出すユニークな視点にファンが多い。著書に『タイアップの歌謡史』(洋泉社)、『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』(角川oneテーマ21)、『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)などがある。

 

毎回様々なジャンルからゲストを迎え、ざっくばらんに語り合うペッレ モルビダの談話企画。4回目は、ライター・編集者の速水健朗さんです。私たちが今まで当たり前だと思ってきたことから新しい学びを見つけ出す。その視点は常に独特です。いったいそのユニークな着眼点はどこから生まれているのか。そんな速水さんからみたファッション文化、そして物へのこだわりとは? 速水ワールド全開のインタビューです。

 

インタビュアー
PELLE MORBIDA PR 相田正輝
PELLE MORBIDA営業 柳原徹

 

柳原 速水さんはこれまでさまざまな著書を出されていますが、本当に守備範囲が広いですよね。

 

速水 確かにそうですね。特にジャンルは絞っていないかもしれないです。

 

柳原 発信されているSNSを見ていても、格闘技から巷のニュース、食や社会情勢などなどいろいろなことに興味があるんだなと。素朴な疑問なのですが、なぜそんなにいろいろなことに深い興味を持てるのでしょうか?

 

速水 物書きって本来はそれぞれ専門分野があって、そこを掘り下げるほうが正しいというか、一般的なんだと思うんです。そういう意味では僕は専門家ではないかもしれません。そもそも出だしはコンピューター雑誌の記者ですし。ただ、あれもこれもと少しずつ全部手を付けているつもりはなくて、対象がなんであっても、そこには自分なりの着目点というか、関心の一貫性みたいなものがあると思っている。それはつまり『当たり前のように思えるひとつの物事を、ものすごく広く考えてみるとどうなるのだろう?』ということなんです。例えば「なぜラーメン屋には人がこんなに並ぶのか?」ってふと思ってしまうと、とことんその理由を知りたくなる。

 

相田 ラーメン屋になぜ人が並ぶのか…。

 

速水 不思議に思ったことないですか? 行列ができるものは色々ありますが、ラーメンはもう並ぶのが当たり前くらいになっているじゃないですか。もちろんおいしければですが。

 

相田 そう言われてみれば、確かに。

 

速水 そこで僕は、『ラーメンって列を作るところからがラーメンなのだなあ』と解釈をするわけです。

 

柳原 なるほど。

 

速水 90年代のはじめ、環八のラーメン戦争があったとき、僕はわりとその近くに住んでいたのですが、みんなわざわざ車でラーメンを食べにくるんですよ。なぜたかが1000円程度のラーメンを食べるためにそんなに遠くから来るのか。ふと思いはするものの、意外とそこをきちんと調べる人はいない。それを調べるのが、自分の仕事だと思っています。

 

相田 面白い。すごい好奇心ですね。

 

速水 普通だったら1杯飲んだら忘れるような話ですよね。

 

相田 僕らがそうですね(笑)。

 

速水 それ以上突っ込んでも何も価値がなさそうなことを大真面目に調べたりなにかにこじつけたりして、まあ半分くらいは妄想だと思いますが、一生懸命ガブっとかぶりついてあれやこれやと考える。そういう意味で、自分の中では一貫性を持って打ち込んでいます。
さっきのラーメンで言うと、原点は「なぜ並ぶのだろう?」なんですが、ラーメンが日本人にとって特別な食べ物である理由みたいなことを考えていくと、戦後のアメリカの農業政策と結びついているのではないかとか、そこまで行き着いてくるわけです。これとこれを紐づけるのはおかしいでしょっていうものをあえてくっつけてみたりするところに、自分の作家性みたいなものがあるんだと思います。ネタのつもりで変なことを大真面目に書いていると、時々本当に大真面目に捉えられたりして困ることもありますけど(笑)。

 

相田 それって、何か使命感みたいなものがあるんですか? それともあくまで自分の興味の範囲のことですか?

 

速水 僕のやっていることはジャーナリストと学者のすき間の作業だと思っていて、今起きていること調べるだけじゃなく、そこに歴史を紐付けたりするんです。で、そういった観点からものを見たとき『そこに当たり前にあるけれど、それについて誰もちゃんと考えたことがないもの』が並んでいるのが、妙に気持ち悪くなってしまうというか…。
たとえば、僕はショッピングモールの本(『都市と消費とディズニーの夢』(角川書店))も書いているのですが、さっきのラーメンと同じようにそれまでショッピングモールのことについてきちんと考えて本にしている人っていなかったんですよ。それがなぜ生まれたのかって大真面目に調べてみたら、実は1940年代の都市計画化が絡んでいた。そしてさらに踏み込んで調べていくと、ディズニーランドの考え方とショッピングモールの考え方がすごく似ていることに行き着く。実はウォルト・ディズニーはテーマパークではなく街を作ろうとしていたっていう話があって、それとショッピングモールが結びつくんです。そういう、大きな謎に対する回答が見つかると面白いですよね。

 

相田 そもそもそこに疑問を持つことがすごいです。

 

速水 半分妄想が入ってますけどね(笑)。さっきの使命感っていう話で言うと、そういった事象を通してなにか大事なことに気づかなければいけないんじゃないか、みたいな意識はあります。ちなみに、体によくないとされているインスタントラーメンが世界の貧困問題にとても貢献しているって知っていました?

 

柳原 そうなんですね! 面白い…。ちょっとした疑問を持つことで、そういったところにたどり着くわけですね。

 

 

                                                                                                                                 ~編集者 速水健朗さんに学ぶ、着眼点の見つけ方Vol.2へ続く~