PELLE MORBIDA

17 .February .2020

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~編集者 速水健朗さんに学ぶ、着眼点の見つけ方Vol.2~

~編集者 速水健朗さんに学ぶ、着眼点の見つけ方~

速水健朗さん
ライター・編集者。1973年生まれ。出版社勤務を経て、2001年よりフリーの編集者・ライターとして活動を開始。なんでもない事象から新しい価値観を見つけ出すユニークな視点にファンが多い。著書に『タイアップの歌謡史』(洋泉社)、『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』(角川oneテーマ21)、『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)などがある。

 

 

柳原 ところで速水さんは食に関しての著書(『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新書))や、住む場所に関しての著書(『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書))がありますが、着るもの=ファッションに関してはまだありません。衣食住のうち衣を取り上げない理由はあるんでしょうか?

 

速水 まだ本にはしていませんが、もちろん「衣」にも興味はあります。そこにも、政治意識というと大げさですけれど、いわゆる右翼的な考え方と左翼的な考え方があるはず。簡単に言うとアメリカの西海岸と東海岸の違いというか。アメリカではエスタブリッシュメントとそうじゃない人たちの考え方の違いがはっきりしていますよね。で、それが日本に輸入されるとまた違った形になる。その辺がまだ書ききれない衣に関する難しさであり、けれど絶対に面白いテーマだと思っています。

 

また、ファッションは矛盾の集まりのようなものですよね。『ベーシックなもの、トラッドなものを選びましょう』と言った趣旨の雑誌の特集をよく目にしますが、本当にベーシックなものが大事なのだとしたらアパレルメーカーは潰れますし、雑誌も必要なくなるわけですよね。その事実だけ見たら自らの首を絞めているわけです。でも決してそういうつもりではない。それと、僕はたまに無性にダサいものを着たくなるんですが(笑)、最近それがどうやら許される傾向にある。なんというか、今は「ダサいものの取り入れ方がうまい人たちが1番おしゃれだ」っていう空気感があるじゃないですか。例えば、タイラー・ザ・クリエイターがやっているブランドとか。あとK-POPのファッションとかもそんな印象です。そんな感じで、うまく説明がつかないことが特に日本のファッションには非常に多いんですよね。でもこれを深読みすると、日本人の結構重要なところを言い当てている気がするんです。それは何かというと、何かしらちょっとはずさないといけないっていう文化がそこに見え隠れする。取り組むには非常に面白いテーマです。いつかやってみたいと思っています。

 

相田 是非お願いします! ところで、速水さんはいろいろなものを俯瞰で見るのがお上手ですが、ご自身に関することはいかがですか? たとえば実はめちゃくちゃジムに通ってますとか…

 

速水 行ってないです(笑)

 

柳原 毎週末はアウトドアライフを楽しんでいるとか…

 

速水 ないですね…

 

相田 ラーメン次郎は週一で通っているとか…

 

速水 実は一度も行ったことがないです。

 

相田 笑。趣味はあるんですか? ファッションにはご興味がおありのように見えますが。

 

速水 自分の特性として、着る服がなんでもすぐにヨレヨレになってしまうところがありまして…。どうしてもそれは治らないので、もうこれを“エイジング”と考えようと諦めました。実際、古いモノを買うことは好きで、60年代のVANは特に好き。今はだいぶ高くなったのでなかなか手に入らないんですよね。

 

相田 あのアイビーファッションのVANですよね?

 

速水 そうそう。ロゴものは結構人気があるんですよ。あとはキッチュなものも好きなので、とんねるずでお馴染みのバレンタインハウスのセーターや、Tシャツを集めていたりします。ちなみに、今どき車の助手席にTシャツを被せる人なんていないと思いますが、僕は今それをやっています(笑)。

 

柳原 鞄は普段どういったものを使っているんですか?

 

 

速水 今は70年代の古いレザーのブリーフバックを使っています。

 

柳原 拝見してもいいですか?

 

速水 もちろん。これは古着屋で買ったもので、結構ボリュームがあるタイプ。僕はカバンに合わせて荷物を変えるタイプですね。

 

相田 へー、普通は逆ですよね。

 

速水 バックは機能重視とかベーシックなものをとかいうけれど、僕は「本当?」って思うんですよね。理由がどうあれ、それが気に入ったバックなのだったら、それに荷物を合わせればいいと思うから。

 

柳原 じゃあ、カバンに求める条件みたいなものはないんですか?

 

速水 時に『これじゃないと』っていうのはないかもしれません。レザーも好きですが、ナイロンも好き。今日のバッグと同じように経年変化したナイロンも好きなんですよ。だから、そういう意味では、ヨレヨレになっても格好良くて、長く愛せるバッグっていうのが条件でしょうか。

 

相田 ペッレ モルビダとハイドロフォイルはいかがですか?

 

速水 これは本当にレザーもナイロンもいい感じのものを使っているので、長く愛せそうだなって思いました。きっとヨレヨレになっても格好いいと思う。趣味性も合理性も備えた素敵なバッグだと思います。

 

相田 ありがとうございます。

 

 

 

速水 例えばこれなんかは。ブリーフケースでもトートバッグでもない、どちらとしても成立する感じがいい。そういうバランス感って今っぽいですよね。

 

柳原 ルックスも大事だし、機能性も妥協しない。その両方をしっかりと捉えながらアップデートしていくのが、我々が提案するバッグのポイントのひとつです。ルックスだけ良くて道具としての本質を失っているものも、機能性だけ良くて見栄えに無関心なものもよくないですから。

 

 

 

 

速水 僕は、見た目に無関心な人っていないと思っているんです。言うなれば『無関心であるという関心を持たざるを得ない』という感じかなと。だって、目立つものを着たくないっていうこだわりもまた、見た目に対するこだわりのひとつなワケですし、なんならそっちのほうがむしろ意識としては強い気がしますけどね。『何も選んでいない自分を選んでいる』っていう人たちのほうがよほどこだわっているっていうか。

 

 

相田 確かにそうかもしれません。

 

速水 ものすごくこだわっている人がものすごくシンプルなモノを着てしまうと、まったく服にこだわっていないことをアピールするためにシンプルな恰好をしている人たちとの区別がつかなくなる。ファッションってその微妙なニュアンスで勝負しているので、難しいなあって気がします。

 

柳原 うーん、やっぱり着眼点が面白いですね。速水さんとお話ししていると、ファッションも新しい側面が見えてきます。ところで今は何か新しく取り組んでいらっしゃる事はあるんですか?

 

速水 今はちょっと都市論を取材しています。都市がこれから変化するってよく言うじゃないですか。自動運転が出てきたら都市が変わるとか言われたりしてたりして。その辺のところを調べていこうと思っています。

 

相田 面白そうですね。

 

 

速水 年論を語るとき、1番わかりやすく変わるのって実は公園なんですよ。

 

柳原 公園? 速水 ニューヨークのフロイトンパークやタイムズスクエアは今でこそ普通にそこにありますが、なぜ、どんな経緯でこういう形になったのかっていうのを調べると面白いんです。日本でもその流れを追随する動きがあるんですが、どうやら日本はニューヨークのようには変われないらしいというのがある。そういった、今までになりオルタナティブな都市の変化みたいなものを深掘りしたいと思っています。なかなか1冊になるかどうかは難しいですけれど。

 

柳原 期待しています。今日はありがとうございました。